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COP28 ジャパン・パビリオンセミナー

12月3日(日)~5日(火)経済産業省は、COP28ジャパンパビリオンにてセミナーを開催いたしました。セミナーのオンデマンド動画は以下よりご覧いただけます。(英語音声のみ)

1. ネットゼロ社会に向けた削減貢献量の適切な評価

日時 2023年12月3日(日)18:00–19:15 (JST) / 13:00–14:15 (GST)
主催 経済産業省(担当課室:産業技術環境局地球環境対策室)
共催 持続可能な開発のための経済人会議 (WBCSD)
内容

2023年12月3日、COP28(UAEドバイ)において経済産業省と持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)は「ネットゼロ社会に向けた削減貢献量の適切な評価」という題名でセミナーを開催しました。登壇者は以下の通りです。

  • 小林 出 経済産業省環境問題担当審議官
  • Dominic Waughray, Executive Vice President, WBCSD
  • 濟木 ゆかり 野村ホールディングス株式会社 サステナビリティ企画部 Vice President
パネルディスカッション1
  • Gilles Vermot-Desroche, SVP Corporate Citizenship and Institutional Affairs, Schneider Electric
  • Paula Cousins, Chief Strategy & Sustainability Officer, Weir Minerals
  • Pierre-Yves Pouliquen, SVP, Multifaceted Performance & Sustainable Development, Veolia
  • 津田 恵 日立製作所 サステナビリティ推進本部長
  • Alexander Nick, Senior Director, Climate Action, WBCSD
パネルディスカッション2
  • 上原 宏敏 パナソニック オペレーショナルエクセレンス 品質・環境担当、CS担当 執行役員
  • Stephanie Chow, Director, Climate Finance. & Strategy, GFANZ
  • Christopher Kaminker, Managing Director, Head of the Sustainable Investment Research & Analytics (SIRA) team, Black Rock
  • 山我 哲平 野村アセットマネジメント ネットゼロ戦略室長
  • Marvin Henry, Senior Manager, Avoided Emissions, WBCSD

オンデマンド動画


2. GX投資拡大における国債の役割

日時 2023年12月4日(月)19:45–21:00 (JST) /14:45–16:00 (GST)
主催 経済産業省、財務省、環境省
登壇者
  • YOSHIDA Nobuhiro, Parliamentary Vice-Minister of Economy, Trade and Industry
  • KIHARA Shinichi, Director General for International Policy on Carbon Neutrality, METI ARASE Rui, Director for Debt Management and JGB Investor Relations
  • INOUE Mineto, Director for GX Finance Policy, METI
  • Isabelle Laurent, Deputy Treasurer and Head of Funding, EBRD
  • AIHARA Kazuyuki, Head of Sustainability Finance Section, Nomura Securities
  • Theo Kotula, ESG Analyst, AXA IM

オンデマンド動画


3. Tech for Transition

日時 2023年12月5日(火)15:30–16:45 (JST) /10:30–11:45 (GST)
主催 経済産業省(担当課室:産業技術環境局地球環境対策室)
共催 UAE政府(COP28議長)
内容

2023年12月5日、COP28(UAEドバイ)において経済産業省は「Tech for Transition」という題名でセミナーを開催しました。登壇者は以下の通りです

  • 吉田 宣弘 経済産業大臣政務官
  • 市川 晃 住友林業会長
  • 楠見 雄規 パナソニック代表取締役社長
  • ピーター・バッカー 持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)総裁
  • 髙尾 正樹 JEPLAN代表取締役社長
  • Roland Roesch, Acting Director, Innovation and Technology, IRENA.
  • Tiffany Vass, Energy Analyst, Technology Innovation Unit

担当課室:産業技術環境局地球環境対策室

オンデマンド動画


COP28ジャパンパビリオンに関する詳細は、以下のホームページをご覧ください。
http://copjapan.env.go.jp/cop/cop28/

GGX×TCFD Summit

Video Distribution

GGX×TCFDサミットは2023年10月2日に終了いたしました。本会議の映像は下記よりご覧いただけます。

GGX×TCFDサミットの概要

  • 日時:2023年10月2日(月曜日)10:00~17:00
  • 開催方法:ハイブリッド開催(現地/オンライン)
  • 主催:経済産業省
  • 共催:WBCSD、TCFDコンソーシアム

プログラム


Opening Remarks 畠山 陽二郞(経済産業省 産業技術環境局長)
十倉 雅和(一般社団法人日本経済団体連合会 会長)
加藤 勝彦(一般社団法人全国銀行協会 会長)
David Atkin(CEO, Principles for Responsible Investment (PRI))
Session 1
Keynote Speech 1
Gianluigi Benedetti(Ambassador, Embassy of Italy In Tokyo)
Panel Discussion「産業の脱炭素化に向けて」
産業の脱炭素化を加速するために必要な「グリーン市場」の創出に向けて、特に需要喚起のためにどのような取組が必要か。

<モデレーター>
Peter Bakker(President and CEO, World Business Council for Sustainable Development (WBCSD))
<パネリスト>
Nancy Gillis(Program Head, First Movers Coalition, World Economic Forum)
Rana Ghoneim(Chief, Energy Systems and Industrial Decarbonization Unit, United Nations Industrial Development Organization)
手塚 宏之(JFEスチール株式会社 役員 専門主監)
三田 紀之(三菱ケミカルグループ株式会社 サステナビリティ部 執行役員 ※10月1日以降)
小林 出(経済産業省 大臣官房審議官(環境問題担当))
Session 2
Panel Discussion「企業の「課題解決力」と「削減貢献量」」
企業の「課題解決力」が問われる社会となりつつある。企業のソリューションが社会全体の脱炭素化にどの程度貢献するかを評価する「削減貢献量」にはどのような可能性があるか。

<モデレーター>
林 礼子(BofA 証券株式会社 取締役副社長)
<パネリスト>
Jason Mortimer(野村アセットマネジメント 運用部 グローバルソリューション 債券サステイナブル・インベストメント・ヘッド)
上原 宏敏(パナソニック オペレーショナルエクセレンス 品質・環境担当、CS担当 執行役員)
Philippe Breant(Chief Technical Officer (CTO), Veolia Asia)
蛭田 貴子(シュナイダーエレクトリック株式会社 C&Q本部 本部長)
Session 3
Keynote Speech 3
Emmanuel Faber(Chair, ISSB)
宮園 雅敬(年金積立金管理運用独立行政法人 理事長)
水野 弘道(グッドスチュワードパートナーズ合同会社 代表社員)
Panel Discussion 「気候関連情報開示の今後」
気候関連情報開示の動きが加速する中、今後はどのような取組が必要か。トランジション・ファイナンスの推進に資する開示はどういった姿か。

<モデレーター>
長村 政明(東京海上ホールディングス株式会社 国際機関対応 フェロー)
<パネリスト>
Alex Michie(Head of Secretariat, GFANZ)
池田 賢志(金融庁 総合政策局 チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー)
石川 知弘(三菱UFJフィナンシャル・グループ 経営企画部 部長)
北川 啓子(株式会社JERA 財務戦略統括部 グローバルIR部サステナビリティ推進ユニット長)
Session 4
Keynote Speech 4
Mary Schapiro(Head, The TCFD Secretariat)
伊藤 邦雄(TCFDコンソーシアム 会長)
Panel Discussion「トランジション・ファイナンスの今後の展望」
トランジション・ファイナンスの重要性への認知が国際的に拡大するなか、企業の脱炭素への投資・それに対する民間資金供給の更なる推進に向けて、どのような取組みが求められるか。

<モデレーター>
木原 晋一(経済産業省 資源エネルギー庁 国際カーボンニュートラル政策統括調整官)
<パネリスト>
Nicholas Pfaff(Deputy Chief Executive, Head of Sustainable Finance, International Capital Market Association)
Sean Kidney(CEO, Climate Bonds Initiative)
Eila Kreivi(Director, Chief Sustainable Finance Advisor, Secretariat General, European Investment Bank)
久保田 伸彦(株式会社IHI 常務執行役員 技術開発本部長)
Closing Remarks Peter Bakker(President and CEO, World Business Council for Sustainable Development (WBCSD))

開催概要

経済産業省は、9月25日から開催した「東京GXウィーク」及び「Japan Weeks」の一環として、10月2日(月曜日)、世界のグリーン・トランスフォーメーション(GX)の実現について議論する「国際GX会合(GGX)」とTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言について先進的に取り組む世界の企業や金融機関等のリーダーを集めた「TCFDサミット」の両イベントを統合し、「GGX×TCFDサミット2023」を開催しました。
本会合では、(1)産業の脱炭素化に向けて、(2)企業の「課題解決力」と「削減貢献量」、(3)気候関連情報開示の今後、(4)トランジション・ファイナンスの今後の展望の4つのセッションが行われ、それぞれのテーマについて国内外の有識者から提言をいただいた他、パネルディスカッションでGXの実現に向けて今後必要な取組について議論を行いました。

議論の内容

Opening Remarks


ロシアのウクライナに対する不法な侵略により、欧州のグリーン化はより一層緊急性を帯びており、EUでは、「RePowerEU構想」を打ち出し気候変動対策をより一層加速させる。また民間投資を十分に引き出すために、TCFD提言を重要な参照とし、情報開示とサステナビリティレポートに重点を置いた取組を進めて行く。EUは、気候ニュートラルに到達することに引き続き尽力し、炭素排出量の多いエネルギー源から脱却するために、利用可能なあらゆる手段を用いていく。
十倉 雅和 氏(一般社団法人日本経済団体連合会 会長)

日本政府のGX政策を歓迎。官民合わせた150兆円規模の投資を今後10年間で実現するには、民間資金の動員にむけた環境整備が急務。現時点で存在しないゼロエミッション技術のイノベーションに取り組む企業への長期的支援が求められる。また、排出削減に資する技術・製品・サービスの普及のために「削減貢献量」の積極的評価に期待。
今までにない規模での産業の転換を行うため、官民金で協力して取組を推進することが必要。

加藤 勝彦 氏(一般社団法人全国銀行協会 会長)

金融機関は企業の開示情報を活用し、実体経済の移行に必要な資金を円滑に供給し、企業の取り組みを加速する。
一方、銀行界も投融資を通じたCO2出量の削減が求められている。日本に銀行が誕生して150年という節目において、エンゲージメントの充実、企業による開示の支援、そしてサステナブルファイナンスの拡大を通じ、これまで同様、産業界、日本政府と一丸となってGXに挑み、脱炭素社会実現を目指す。

David Atkin 氏(CEO, Principles For Responsible Investment (PRI))

PRIは2006年の発足から持続可能なクロ―バル金融システムの構築を支援するため、6つの原則を提示。現在約5,500の機関が署名し、運用資産額は120兆ドルを突破。
気候変動や生物多様性に関して世界的な合意がなされる中、責任投資に対する期待は一段と高まっている。PRI in Personの会合が完売し、本会合が盛会であることから、東京ではサステナブルファイナンスの機運が高まっていることを感じている。

David Atkin

Session 1


Keynote Speech 1


Gianluigi Benedetti 氏(Ambassador, Embassy of Italy In Tokyo)

気候中立経済への移行において産業界が主導的な役割を果たすと考えている。産業の脱炭素化において重要なことは、競争力のある産業を維持することと、カーボンリケージを防ぐことである。この観点から、日本も注力頂いたG7の産業脱炭素アジェンダ(IDA)イニシアティブは重工業の脱炭素化と革新的技術開発を目的とした戦略的枠組みを提供しており、イタリアとしてもこの重要な活動を引き継いでいきたい。イタリアの産業部門からの排出の64パーセントが削減困難な(hard-to-abate)部門であり、国内総生産の5%、70万人の雇用を占めている。イタリア政府は国家復興・強靭化計画資金の31.5%の594.7億ユーロ―を脱炭素への取組に当てるが、それでもこれらの解決策が全ての生産状況に適しているわけではない。あらゆる選択肢を排除せず、統合的な脱炭素戦略を策定することが不可欠である。来年のG7イタリアに向けて日本議長国のもとで進められた活動を引継ぎ、この共通の目標の達成に向けて野心的に取り組んでいく。

Gianluigi Benedetti

Panel Discussion 1

産業の脱炭素化に向けて

鉄鋼や化学などの排出削減が困難なセクターからのCO2排出量は世界で30%を占めており、これらの分野の脱炭素化に必要なグリーン市場の需要喚起の必要性及びその課題について議論を行った。グリーン市場の需要喚起にはFMC(First Movers Coalition)による民間調達、IDDI(Industrial Deep Decarbonisation Initiative)による公共調達を促すイニシアティブが大きな推進力になり、排出削減が困難なセクターに必要な投資を呼び込み、先進的な脱炭素技術の商用化につながることが強調された。グリーン製品の購入を消費者に促すには、環境価値を見える化し適切に評価され、消費者がコスト増を受け入れるビジネス環境が必要であるという課題が指摘された。
次に、グリーン市場の創出のためのデータに基づく産業脱炭素化について議論を行った。ニア・ゼロ・エミッション素材の定義に関する議論を進めることが重要であり、そのためには各国異なる排出測定方法がある中で適切なデータを収集、評価し、調和させる必要があることが指摘された。G7産業脱炭素化アジェンダでは、鉄鋼セクターで「グローバル・データ・コレクション・フレームワーク」の開始に合意したことが紹介された。また、会社全体として着実な排出削減を達成していくマス・バランスアプローチは、ニア・ゼロ・エミッション素材の初期市場創出のために有益であり、上流と下流産業で考え方を共有することにより、サプライチェーン全体の着実な脱炭素化につながっていくとの意見も示された。
最後に、COP28に向けて産業の脱炭素化には発展途上国を含むすべてのプレーヤーの行動を加速する必要があり、バリューチェーンや主要セクターを超えて業界のトランジションを推進していくため、国際的なイニシアティブへの参加も含めて、官民で協力して取り組んでいくことの必要性が発信された。

Session 2


Panel Discussion 2

企業の「課題解決力」と「削減貢献量」

SDGs達成に向けた企業の貢献に対して社会の期待が高まる中、企業活動を通じた社会課題解決への貢献による価値創出、すなわち「課題解決力」が求められている。気候変動に関しては、GHG排出量が企業の競争力に影響を与えるリスク要因と見なされており、スコープ1~3の評価手法の開発に繋がった。しかし、これだけで企業を評価するには不十分であり、企業の社会全体の排出削減への貢献を評価し、ポジティブな気候行動を促す他の仕組みが必要である。期待されているのが企業の「課題解決力」を示す一つの指標としての「削減貢献量」である。金融機関の観点からも、企業自身の排出削減という「リスク」面だけに焦点を当てて企業を評価するよりも、企業の「成長機会」を見たいと思っており、そもそも、イノベーションを通じて社会全体への削減貢献を追求していくことが最も効率的に資本を配分できるため、より包括的なアプローチで脱炭素に貢献する企業を評価することができるとの指摘がなされた。ただし、グリーンウォッシュを避けるため、削減貢献量はスコープ1~3の排出とは明確に区別されており、オフセットの手段として使用できないことに注意が必要であることも指摘された。
削減貢献量はまだ測定手法が確立していないという課題があり、グリーンウォッシュを防ぐためには、多様なステークホルダーとともに削減貢献量のデータの開示・分析に関する議論を進めていくことが重要であると強調された。世界では、IECにおいて電機電子分野における削減貢献量の測定手法の標準化が進められており、2024年末の公表を目指している。WBCSDにおいては、今年3月に出したガイダンスに基づき、それがより実態に即したものとなるよう、セクター毎のケーススタディを実施している。また、日本国内のGXリーグにおいても、金融機関における削減貢献量の活用事例に関するケーススタディが実施されている。削減貢献量が金融機関における企業評価基準の一つとして活用されるためには、電機電子分野のように同じ業界内で測定方法の標準化を進めるとともに、比較可能な他の業界にも同様の取組が拡大し、業界横断的に比較可能なデータとなることへの期待が示された。
削減貢献量の考え方をさらに社会に浸透させていくためには、まずはステークホルダー間で削減貢献量に関する議論の場を設け、コミュニケーションを促進することが重要であることを確認した。

Session 3


Keynote Speech 3


Emmanuel Faber 氏(Chair, ISSB)

ISSVは6月、企業のサステナビリティ全般に関する「S1」と気候変動に関する「S2」という2つのIFRSサステナビリティ開示基準を公表。両基準ともTCFD提言に沿って設計された。
TCFDを設立した金融安定理事会(FSB)は「TCFDの取り組みがS1、S2に結実した」と高く評価。基準の採用は各国の判断によるが、他国に先駆け、これをベースに国内基準を検討している日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)に深く感謝。

宮園 雅敬 氏(年金積立金管理運用独立行政法人 理事長)

GPIFが運用する約220兆円の年金積立金は将来の年金給付の財源。着実に増やすことが使命だが、気候変動リスクは、全ての資産に同時に生じ、分散投資での回避は困難であるため、GPIFは気候変動を最重要テーマと位置付け、18年にTCFD提言への賛同を表明。適正な情報開示は、企業の競争力評価をするうえで大変重要な要素。排出削減に取り組む企業が適正に評価され、投資が進むことが脱炭素実現に繋がる。

水野 弘道 氏(グッドスチュワードパートナーズ合同会社 代表社員)

TCFD設立から8年間、気候変動に関する情報開示を推進してきたが、それも終わる。今後は開示された情報をいかに投資家の使いやすい形に加工し、どう金融分析や意思決定に生かすか重要。
米国で反ESGの動きが活発化しているが、これは政治的な問題。金融界で「気候リスクは投資の運用成果に影響するか?」と問えば、大方の人がイエスと答える。
TCFDの取り組みに最も貢献している国は日本。今後の日本企業の取り組みにも期待。

Panel Discussion 3

気候関連情報開示の今後

本夏に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の開示基準が公表され、気候変動関連情報開示の更なる推進への期待があるとの認識のもと、トランジション・ファイナンスを推進する上で企業側・金融機関側で求められる開示の在り方について議論がなされた。
トランジション・ファイナンスをより広く普及するには、適格な移行計画の策定・開示が必要。GFANZの策定しているガイドラインなどのツールがあり、それにならった開示をしている企業数も増えているところであり、今後の発展への期待が示された。
金融機関としては、ポートフォリオ上の排出量をどう開示するかが課題であると認識。ファイナンスドエミッションはある一時点での金融機関のポートフォリオ上の排出を示すのみであり、今後の削減経路が見受けられないことの限界があると認識された。その上で、当日発表された日本の官民サブワーキングのペーパーを歓迎した。

Session 4


Keynote Speech 4


Mary Schapiro 氏(Head, The TCFD Secretariat)

ISSBにより、世界共通の気候情報の開示基準が確立。また、GFANZも昨年、移行計画のフレームワークを公表。
経済の脱炭素化を可能にする技術や製品、ネット・ゼロを目指すビジネスモデルへ、信頼できる移行計画を持つ企業、ネット・ゼロ経済から取り残されるリスクがある高排出資産の管理された形での段階的な廃止への資金供給を行うため、移行計画を含む一貫した情報開示を通じて目標達成を後押しする必要がある。

伊藤 邦雄 氏(TCFDコンソーシアム 会長)

TCFDの賛同機関数4,700超のうち、1,454は日本の機関。開示基準は今後、TCFDからISSBに移管されるが、TCFDコンソーシアムが情報を開示する側とそれを活用する側が協働し、グローバルな動きについて議論する希少な場であることに変わらない。
トランジション・ファイナンスの重要性について5月のG7広島サミットで認識された。企業が開示を進化させ、金融機関が評価し、気候変動対策に必要な資金が潤沢に供給されることを期待。

Panel Discussion 4

トランジション・ファイナンスの今後の展望

トランジション・ファイナンスは初期の案件からグリーンウォッシュという印象が付いてしまったが、世界的にトランジション・ファイナンスが必要であり、欧州でも理解は進んできている。その推進には日本が作成しているロードマップや、ICMAハンドブックに記載されているトランジション戦略が重要。各種ツールが揃ってきている状況であり、トランジション・ファイナンスの推進について真剣に語る場が出来つつある。今後の更なる促進には、タクソノミーは実装時期の見通しが立てづらいイノベーションと相性が悪いなど、各種手法が一長一短であることを認め、環境整備を進めていく必要があることが認識された。
金融商品としてはグリーンボンド、トランジション・ボンドと色々種類はあるが、いずれも同じ気候変動対策の違う側面にフォーカスをあてているものであることを認識し、トランジション・ボンド市場の急速な拡大への期待が示された。
アンモニア燃焼技術はトランジションに大きな貢献を果たすと期待されることを例に、脱炭素にむけて、全ての手段について研究開発を推進すべきであるとの考えが共有された。欧州Invest EU、米国IRA、日本のGX政策は革新的な取組であり、長期的なトレンドとなるだろうという考えが示されたGXに不可欠な新技術の開発・実装には、引き続き金融機関と企業の対話に加え、適格性を保証するための開示が必要であることが認識された。

Closing Remarks


Peter Bakker 氏(President and CEO, World Business Council for Sustainable Development (WBCSD))

2019年のTCFDサミットの議論は、概念的な内容であった。脱炭素という言葉は使われず、成長と環境の好循環と言っていた。しかし今回、全てのスピーカーが脱炭素に向けて、30年までに温暖化ガスの50%削減、50年にはカーボンニュートラル達成をしなければいけないと話した。気候変動対策としてのトランジションは19年当時のような概念ではなく、実行プランである。実行へ移すには資金が必要。そこでトランジションの進捗を算定し、その結果を開示する。それを投資家が評価し、有望なソリューションへと資金を振り向ける。こうした好循環をつくり出すことが欠かせない。今回、企業のトランジションとアカウンタビリティー(説明責任)を組み合わせた議論が行われたことは大変意義深い。

国際GX会合

開催結果

(i)議論の概要


1. 第一回国際GX会合(GGX)はハイブリッド形式で10月7日に開催。今回の国際GX会合では、オンラインを含め、のべ1,300人以上が傍聴し、また登壇者として、閣僚級や各機関のヘッドのビデオ出演を含め、G7から5カ国(日本を除く)、2つの国際機関、12の大学・研究機関・民間企業が出席したところ。
2. グリーン・トランスフォーメーション、“GX”とは、エネルギー危機の顕在化や気候を巡る状況が変化する中で、社会システムをクリーンエネルギー中心へと変革し、排出削減と経済成長を両立すること。今回の国際GX会合において、世界で初めてグローバルなGX実現について議論することとなった。
3. 第一回国際GX会合では、GXの実現に向けて、①冒頭各国・機関等からのハイレベルな参加者によるスピーチ、②グローバル企業がグリーンな製品を一定程度調達することを自ら約束し、グリーンな製品の初期需要を創出するイニシアチブであるFirst Movers Coalition(FMC)に関するアジアでの初めてのイベントである「FMC in Japan(※後述参考参照)」が行われたのちに、3つのパネルディスカッションが行われた。
具体的にはGXの実現に向けて未解決な課題を議論するため、「グリーンな市場の創出」、「グリーンな製品・サービスを推進するための評価・基準」、「グリーンな社会を構築するための国際協力」について議論された。会合を通じてGXに向けた取組を進める前向きな姿勢について、ハイレベルを含め各出席者から数多くの言及や期待が寄せられた。
4. 開会セッションでは、中谷副大臣からは、GXの実現に向けた我が国の取組や削減貢献度の考え方へのハイライトがあった。WBCSDピーター・バッカーCEOからは企業取組の評価手法の確立や、利益追求から脱炭素化への構造転換が不可欠だとの指摘があった。米国ケリー気候問題担当大統領特使からはセクター別の取組や、市場創出のためのFMCの重要性を指摘した。欧州委員会ティマーマンス上級副委員長からはEU-ETSや炭素国境調整措置等、規制的な手法を含む欧州の取組を紹介しながら、自主的な手法で取り組む日本への関心が示された。英国キャラナン卿・政務次官(ビジネス・エネルギー・企業責任担当閣外大臣)からはクリーン技術の普及を促進するBreakthrough Agendaを含む英国の気候変動に対する取組等について言及された。OECDコーマン事務総長からはOECDの昨今の気候・エネルギーの取組、特にIFCMAの取組について言及された。IEAビロル事務局長からは産業の脱炭素化の重要性や、ニアゼロエミッション素材の定義等における議論の進展やデータ開示の重要性について言及された。
5. グローバル企業がグリーンな製品の調達目標を定め、初期需要を創出するイニシアチブであるFMCについて、冒頭、写真撮影が行われた後(後述参考参照)に、中谷副大臣から、本年5月に日本が戦略的パートナー国として参画したこと、今回がFMC初のアジア開催となったことの紹介があった。続いて、米国と共同議長を務める世界経済フォーラムのナンシー・ギルズ氏よりFMCの活動が紹介された。続いて、在日米国大使館ロスキャンプ首席公使代理から、多くの日本企業にFMCへの参加を期待する旨が述べられた。最後に、日本企業として初めてFMCに参画した商船三井を代表して、田中副社長から、社会インフラである海運事業としての排出削減への強いコミットメントや、FMCのようにベストプラクティスを共有する国際的な場の重要性について述べられた。
6. 「グリーンな市場の創出」のパネルディスカッションにおいて、供給サイド・需要サイド双方からのアプローチが発表された。供給サイドにおける取組の一例として、カーボンプライシング等が紹介され、歳入が革新的技術への資金にも動員される側面も紹介された。需要サイドの取組の一例として官民でグリーン製品の購入にコミットする取組等が紹介された。さらに、補助金を活用した革新的な技術を導入する取組み、産業の競争力を維持しながら段階的に低炭素技術の導入を支援する資金調達の手段としてのトランジションファイナンスの必要性が指摘された。議論の中では、脱炭素化のプロセスにおける公正な移行、脱炭素を加速化させるための取組みの必要性、グリーン製品のサプライチェーンの構築、脱炭素化のためのインフラ構築のための投資の必要性が指摘された。
7. 「グリーンな製品・サービスを推進するための評価・基準」のパネルディスカッションでは、冒頭「企業等の活動主体の自らの活動やサプライチェーンにおける温室効果ガス削減」に焦点が当たる中、「企業の提供する製品やサービスの普及を通じた社会全体での削減への貢献」を評価することも重要だという説明があった。その後の発表や議論を通じて、削減貢献度の考え方に大きなポテンシャルがあること、ファイナンススキームと関連させながら削減貢献を価値として認識することの重要性についてコンセンサスを持つことができた一方で、ベースラインの設定方法や測定手法を適切に整備することの必要性や、削減貢献度をGHGプロトコルの定める排出削減の範囲(Scope1-3)やNDCと明確に区別することの重要性等が述べられ、今後削減貢献度の考え方を具体化していくことの必要性について、認識の一致をみた。今後、金融機関も含めて、民間主体の国際的な議論を深めていくことについて認識を共有するとともに、政府に対してもこうした考え方をサポートしながらG7等の国際的な場で議論されることへの期待が示された。
8. 「グリーンな社会を構築するための国際協調」のパネルディスカッションでは 、気候危機の中、グリーンな社会の基盤構築と、カーボンリーケージの防止や国内産業の国際競争力維持の両立に向けた政策(炭素国境調整措置等)の検討状況が紹介された。カーボンプラインシング及び排出原単位に基づくアプローチが対比され、その効果や課題が議論された。また、世界のGXを進めるためには、国毎に異なる状況を理解した上で、G20等の主要排出国を含め国際協調が必要であることが確認された。また、国際協力におけるビジネスの果たす重要な役割についても強調され、適応ビジネスはその一例として取り上げられた。また、各国の異なる限界削減費用も踏まえ、先進国と途上国が協力できる枠組としてJCM(二国間クレジット制度)の有効性についても取り上げられた。
9. 閉会セッションでは、経済産業省平井経済産業審議官より、2週間にわたるGXウィーク及び第一回国際GX会合の参加者等への協力に対する御礼とともに、議論の総括をした。

(ii)今後の取組の方向性


10. 同会合での議論を経て、今後、以下の点を中心に経済産業省において議論を加速していく。
  • GHGネットゼロ排出を達成するために、グリーンな市場の構築に向けて、需要サイド・供給サイド両方の側面の両方向からアプローチを組み合わせていくことの重要性を認識した。その際、特に多排出産業において革新的技術が開発・普及するまでにかかる時間軸を念頭に、円滑な移行を促すトランジション市場のあり方について考えることの重要性も認識した。そのためにも、ファイナンスの観点からはグリーンファイナンスやイノベーションファイナンスに加えて、トランジションファイナンスの考え方も活用しながら、グリーンな市場の構築に取り組んでいく。引き続き、多排出産業等においては、それぞれの国ごとの事情に応じて多様なアプローチの必要性を認識し、様々な政策を組み合わせながら実効的な気候変動対策を進めていくあり方について国際的な議論を深めていく。
  • 現状の気候変動対策における議論では、「いかに活動主体(企業等)自身やそのサプライチェーンの温室効果ガス排出量を削減するかという視点」に焦点が当たっており、その観点から、CO2計測の考え方(SCOPE1-3)や企業の会計開示ルール(TCFD)等の取組が進められている。引き続き、こうした取組を加速していくことは重要である。それらに加えて、「企業等が自社のグリーン製品を社会へ普及する等の活動によって社会全体のCO2削減に貢献するという視点」も、活動主体(企業等)のグリーンな取組をさらに促し温室効果ガス削減を進めていく上では、重要である。社会全体としての排出量削減に資する取組が適切に価値として評価され、こうした取組を進める活動主体(企業等)に対してファイナンス等のリソースが向かう仕組みをつくることができれば、グリーンな製品・サービスの普及を促し、経済成長によるネットゼロ排出実現が期待できると考える。そうした概念の下、「削減貢献度」の考え方については、以下の論点も念頭におきながら、各国政府や民間企業、金融機関等様々な団体とも議論を深めていく。
    • 削減貢献度の考え方が適用されうる/されるべき製品やセクターとは何か、削減貢献度の適切な定義と計算手法とは何か、透明性の確保のあり方とは何かについて検討すること。
    • 削減貢献度の考え方の持つ本質的な重要性を認識し、GHGプロトコルが定める排出削減の範囲(Scope1-3)やNDC 等と明確に議論を区別すること。
    • グリーンウォッシングと捉えられないような手法や説明のあり方について、とりわけ削減貢献度の考え方を乱用し、グリーンでない取組を進める国・企業等の不適切な評価につながらないことに留意すること。
  • また、国際協調も、今後気候変動対策を進めていく上で益々重要となってくる。先進国と途上国、双方にとって利する協調のあり方として、各国の事情や強みやビジネスの果たす役割を認識していくことが極めて重要となる(例:適応ビジネスやJCM協力の拡大、途上国における現実的なトランジションを支えるための技術・人材育成等の支援、削減貢献度の考え方等)。加えて、気候変動対策における貿易政策の役割についても引き続き議論することが重要である。
11. 我が国としては、今後COP27や日本が議長国を務める2023年G7等に向けて、国際社会とも協調しながら、先進国、途上国、主要排出国のみならず、気候変動対策における重要な役割を果たすビジネスセクター等とも議論を重ね、世界のGXの実現に向けた様々な課題の解決に向けて議論を重ねていく。

(参考)FMC in Japanにおける写真撮影

(左からWEFギルズプログラム長、経済産業省中谷副大臣、米国ロスキャンプ首席公使代理、商船三井田中副社長)
TCFD Summit 2022

開催の背景

気候変動対策を強力に推進するため、金融の重要性が一層増す中、気候変動関連の情報開示の枠組みとしてTCFDが目的とする気候関連財務情報の開示を企業等に義務化する動きが国際的に進んでいます。開示の枠組みとして国際的に支持されているTCFDへの賛同も加速しており、2022年9月22日時点で、TCFD賛同者は世界3,819機関(2021年9月30日比+1,290)、日本1,062(同+553)機関まで拡大しました。
「経済と環境の好循環」の実現に向けて、国際的な共通ルールを踏まえた開示の質の向上、炭素中立実現に向けた重要な手段であるトランジションやイノベーションの取組が投資家に適格に評価され、資金供給が促されるよう開示することが重要です。
第4回となるTCFDサミット2022では、産業界・金融界のリーダーが適切な投資判断の基盤となる開示の拡充を促すべく、更なるTCFD提言の活用に向けて議論しました。具体的には以下を主要な成果として共有しました。

  • リスクだけではなく、機会を特定して開示するよう促進する必要があり、脱炭素化へのシフトにこれは非常に重要。
  • 金融機関側では、企業の取組・戦略を中長期的な視点で評価すること、企業側ではエンゲージメントに耐えうる情報開示の対応強化が望まれる
  • トランジション・ファイナンスの自律的な民間資金供給の拡大に向けて、企業が描くトランジションの道筋に対する信頼性向上が重要
  • 新技術やその開発動向にかかる企業情報開示に加えて、政府による資金供給面での支援・関与も重要
  • 「TCFDガイダンス3.0」を発信

TCFDサミット2022の概要

日時:2022年10月5日(水曜日)13:00~17:45
開催方法:オンライン
主催:経済産業省
共催:WBCSD、TCFDコンソーシアム
視聴登録者数:約2,600人

プログラム


Welcome Message 西村 康稔 経済産業大臣
Opening Remarks Valdis Dombrovskis(Executive Vice-President, European Commission)
Mark Carney (UN Special Envoy on Climate Action and Finance
Co-chair for the Glasgow Financial Alliance for Net Zero)
Mary Schapiro (Head of the TCFD Secretariat, Vice Chair for Global Public Policy at Bloomberg and Special Adviser to the Founder)
Ronald P. O’Hanley(Chairman and Chief Executive Officer, State Street Corporation)
伊藤 邦雄 (TCFDコンソーシアム会長、一橋大学CFO教育研究センター長)
Opinion Exchange 水野 弘道(国連事務総長特使)
Emmanuel Faber (Chair, ISSB)
Keynote Speech 1 宮園 雅敬(年金積立金管理運用独立行政法人理事長)
Peter Bakker (President & CEO, World Business Council for Sustainable Development (WBCSD))
Panel Discussion1
「国際的な開示のルール化への
対応と機会への評価」
モデレーター:
長村 政明(東京海上ホールディングス フェロー国際機関対応)
パネリスト:
池田 賢志(金融庁総合政策局チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー)
山我 哲平 (野村アセットマネジメント株式会社 責任投資調査部 シニアESGスペシャリスト)
Katie Schmitz Eulitt (Director, Investor Relationships, IFRS Foundation)
山内 利博 (住友化学株式会社 執行役員 経理部担当 経理部長)
Keynote Speech 2 十倉 雅和(日本経済団体連合会会長)
半沢 淳一 (全国銀行協会 会長)
畠山 陽二郎 (経済産業省産業技術環境局長)
Panel Discussion 2
「企業のGX取組評価」
モデレーター:
伊藤 邦雄 (TCFDコンソーシアム会長、一橋大学CFO教育研究センター長)
パネリスト:
林 礼子(BofA証券株式会社取締役副社長、ICMAボードメンバー)
石川 知弘 (三菱UFJフィナンシャル・グループ 経営企画部 渉外室長)
Sandrine Enguehard (Head of Impact Finance Solution, Societe General)
小澤 壽人 (三菱重工業株式会社 取締役・常務執行役員・CFO)
木原 晋一 (経済産業省 大臣官房審議官(環境問題担当))
Keynote Speech 3
「TCFDコンソーシアムの役割と展望」
竹ケ原 啓介 (日本政策投資銀行 設備投資研究所 エグゼクティブフェロー)
Closing Remarks Peter Bakker (President & CEO, World Business Council for Sustainable Development (WBCSD))
  • サミット総括はこちらからダウンロード

議論の内容

Welcome Message


西村 康稔 経済産業大臣からのメッセージ

2050年カーボンニュートラルを目指し、GX(グリーントランスフォーメーション)の実現に向け、多様な実態を踏まえて、幅広い技術やエネルギー源を活用したトランジションを加速化していくこと、革新的なイノベーションの創出と社会実装を進めていくことが重要である。日本政府としては、TCFDを踏まえた企業の気候変動に関する情報開示を基盤に、成長マネーを呼び込んでいく。

Opening Remarks


ヴァルディス・ドンブロウスキス氏(欧州委員会副委員長)のメッセージ

ロシアのウクライナに対する不法な侵略により、欧州のグリーン化はより一層緊急性を帯びており、EUでは「RePowerEU構想」を打ち出し気候変動対策をより一層加速させる。また民間投資を十分に引き出すために、TCFD提言を重要な参照とし、情報開示とサステナビリティレポートに重点を置いた取組を進めて行く。EUは、気候ニュートラルに到達することに引き続き尽力し、炭素排出量の多いエネルギー源から脱却するために、利用可能なあらゆる手段を用いていく。

マーク・カーニー氏(UN Special Envoy on Climate Action and Finance Co-chair for the Glasgow Financial Alliance for Net Zero)のメッセージ

気候変動が企業価値の決定要因となるためには、報告、リスク管理、気候リターンの主流化、大規模資本を流動化する新市場創出が不可欠だ。COP26に向け、我々は主要国にTCFD開示義務化を呼びかけている。日本は自主開示において先進的だが、義務化においてもコーポレートガバナンス・コードの改訂に取り組むことで先進的な対応を示した。我々は開示の充実に向けて、投資家にポートフォリオがいかにネットゼロ移行に整合しているか開示することを望んでおり、ポートフォリオ整合の技術報告書を10月に公表する。あらゆる金融判断に気候変動の要素が考慮される世界を作り上げるために、日本がTCFDサミットを通じて尽力していることに感謝する。

メアリー・L・シャピロ氏(Head Of The TCFD Secretariat)のメッセージ

自主的な枠組みから強制的な開示基準へと移行する転換点を迎えており、グローバルな気候変動開示の基準値を作成するためにTCFDを活用し、様々な国で幅広くTCFDを採用できるような状況を整えている。適切なルールメーキングが行われることにより、気候変動のリスクと機会を管理するために投資家と市場が必要とする情報を企業が提供することを引き続き支援する必要がある。

ロナルド・オハンリー氏 (ステート・ストリート会長兼CEO)のメッセージ

日本では、TCFD開示が実質義務化され開示の質が向上していること、トランジションロードマップによりこれらのフレームワークを用いた資金調達が可能になった。一方、気候変動は現在投資家が直面している最も重要な投資リスクであり、多排出産業は、排出量を削減するために資本を必要とするため、株式売却は解決策にはならず、TCFDはこのトランジション期において効果的な投資を可能にするための重要なツールである。

伊藤 邦雄氏 (TCFDコンソーシアム会長、一橋大学CFO教育研究センター長)のメッセージ

TCFDコンソーシアムは、会員の約70%が事業会社で構成されており、事業会社が自主的に気候変動対策を積極的に行い、情報開示をする潮流が確立しつつある。TCFD開示に関する解説やTCFDコンソーシアムでの成果、最新の知見等を踏まえてTCFDガイダンスの改定も行った。今後も世界最大のTCFD賛同機関が集まる組織として、世界の皆様と連携しつつ、気候関連情報の開示、活用をさらに支援していく。

Keynote Speech 1


宮園 雅敬氏(年金積立金管理運用独立行政法人理事長)のメッセージ

GPIFは気候変動をESG活動の最重要テーマの一つと位置づけ、TCFD提言に沿った気候関連財務情報の開示を行っている。2021年度版のTCFD開示においては、「気候変動リスク・機会の評価と分析」の一環として、カーボンニュートラルの実現に向けた政策動向の整理などを新たに行った。ESG情報開示の基準に沿って、企業がトランジションのプロセスや目標をきちんと開示することが望ましいと考え、GPIFは自らが気候関連財務情報をはじめとするESG情報の開示拡充に取り組むことで、市場全体の持続可能性向上に努めていく。

ピーター・バッカー氏(WBCSD会長兼CEO)のプレゼンテーション

サステナビリティには様々な顔と道があり、複雑である中で、WBCSDは、①気候危機、②自然/生物多様性の損失、③格差や広がる不平等、の3つのチャレンジを全員で考えるべきだと考えている。どのような形でオペレーションを脱炭素化し、ネイチャーポジティブとし、平等になることができるか、そしてバリューチェーンを通じてどのように協力することができ、どのように資本市場、投資家や資金提供者に対して移行を説明するのかが議論され、TCFDはこの面で重要な役割を果たす。

Panel Discussion 1「国際的な開示のルール化への対応と機会への評価」


気候変動関連に関する情報開示のルール化が進む中その現状と対応、さらに気候変動に対するリスクのみならず機会への評価の必要性とその対応について議論を行った。
リスクだけではなく、機会を特定して開示するよう促進する必要があるが、企業が機会を特定し開示しなければ、投資家の注意をひくことはできず、脱炭素化へのシフトにこれは非常に重要である。一方で、トランジションに貢献する機会の側面を評価する方法の議論は、リスク評価よりも進んでおらず、気候関連の機会をより適切に評価するには、排出量以外の指標を考慮する必要がある。
気候関連開示基準は今後も変容し続けであろうし、グローバルな会話に貢献し続けることがまず重要で、日本企業は前向きなフットプリントを残すことができるのではないか。

Keynote Speech 2


十倉 雅和氏(日本経済団体連合会会長)のメッセージ

経団連では、気候変動への取組みを経済成長につなげ、経済社会の根底からの変革を進めるべく、本年5月には、提言「グリーントランスフォーメーションに向けて」をとりまとめた。GXによる社会変容を実現するためには、さまざまな分野で多くの投資が必要であり、資金を動員するための環境整備が重要である。経団連としても、TCFD開示企業のさらなる裾野拡大や、金融機関・投資家とのエンゲージメントの促進に取り組んでいく。

半沢 淳一(全国銀行協会会長)のメッセージ

既に存在する脱炭素技術の社会実装や、未来の技術革新に向け、リスクを見極めつつ、ファイナンス等を通じて 、カーボンニュートラル実現に貢献することが、金融機関が果たすべき役割である。エンゲージメントと開示を一層、積極的に推進し、実体経済の脱炭素化に貢献し、さらに開示の枠組み作りに向けたグローバルな議論にも貢献していく。

経済産業省によるプレゼンテーション

ランジション・ファイナンス及びイノベーション・ファイナンスに関する施策を経済産業省畠山産業技術環境局長より紹介した。

Panel Discussion 2「企業のGX取組評価」


カーボンニュートラルの実現には必要な投資額は巨額であり、日本におけるトランジション・ファイナンスの現状、業種別ロードマップ策定やモデル事業の創出の受け止め、トランジション・ファイナンスの自律的な拡大に向けた課題、イノベーションのような長期的な投資に対する資金供給の課題や企業の情報開示への期待について議論を行った。
トランジション・ファイナンスの自律的な民間資金供給の拡大に向けて、企業が描くトランジションの道筋に対する信頼性向上が重要である。
金融機関・投資家の情報ギャップを埋めるべく、開示や粘り強い対話が必要で、金融機関側では、企業の取組・戦略を中長期的な視点で評価すること、企業側ではエンゲージメントに耐えうる情報開示の対応強化が望まれる。さらに、金融機関のファイナンスド・エミッションが短期的に増加したとしても、トランジションのための適正な投融資であれば、これをトランジションリスクの増加とみなして罰するべきではない。
商業的に完全には確立されていないイノベーション技術の社会実装に向けて、長期的な目線での投資が必要になるものについては、その技術開発動向にかかる情報共有の促進や政府による資金供給面での支援・関与も重要である。

Keynote Speech 3「TCFDコンソーシアムの役割と展望」


日本政策投資銀行 竹ケ原エグゼクティブフェロー

TCFDコンソーシアムは、TCFDの新しい枠組みへの対応という課題に直面し、産業界と金融界が一つのテーブルで議論する場として発足し、これまでのところ期待以上の成果を上げてきた。今後もTCFDの素晴らしいフレームワークを活用しながら、日本のサステナビリティマネジメントの高度化に貢献できるよう、活動の充実を図っていく。

Closing Remarks


ピーター・バッカー氏(WBCSD会長兼CEO)

共催者のWBCSDとして本サミットの成功について経済産業省、TCFDコンソーシアムに祝意を表す。昨年来、COP26でGlasgow Climate Pactがまとまり、ISSBが設立され、プロトタイプが公表されるなど大きく進展が見られた。Scope3排出や削減貢献等が議論されたが、基準の収斂に向けたコラボレーションが重要であり、TCFDは重要な役割を担っている。
主催国の日本のように、政策よってビジネス、イノベーション、サステナブルなソリューションが行われるような環境の形成を促進せねばならない。日本の産業毎トランジション技術ロードマップは、排出量削減目標に向けて投資家に対して重要なコンテクストを提供する。
気候変動に関するリスクを特定・評価・管理することはビジネスにおいて重要であり、投資意思決定でも重要となりつつある。単に開示だけではなく、戦略、投資意思決定、業績管理、報償管理をもって、移行の規模を拡大していかなければならない。このような会場で投資家、銀行、ビジネス、政策当局が一堂に会し、オープンにシステムの変革を話せる場は他にない。登壇者の方々からは多くの刺激を受けることが出来た。野心的な戦略と行動をもってネットゼロの達成に邁進しなければならない。

TCFD Summit 2021

オンデマンド動画

TCFDサミット2021は10月5日に終了いたしました。
サミットの映像は下記よりご覧いただけます。
登壇者のプレゼンテーション資料はこちらからダウンロード下さい。

開催の背景

気候変動への関心の高まりをうけ、世界で120か国以上が2050年カーボンニュートラルを宣言し、これを実現させるために金融機関も投融資先のネットゼロに向けた活動を活発化させています。
企業等の気候変動に関する情報開示の重要性は一層高まっており、開示の枠組みとして国際的に支持されているTCFDへの賛同も加速しています。2021年9月30日時点で、TCFD賛同者は世界2,529機関(+1,096)、日本509(+203)機関まで拡大しました。
「経済と環境の好循環」の実現に向けて、TCFD開示に対する企業のコミットメントをさらに促すとともに、投資家の適切な投融資判断に資するよう、企業は開示の質の向上・内容を深化させ、投資家はそれを的確に理解することが重要です。
第3回となるTCFDサミット2021では、産業界・金融界のリーダーが適切な投資判断の基盤となる開示の拡充を促すべく、更なるTCFD提言の活用に向けて議論しました。具体的には以下を主要な成果として共有しました。

  • 投資家によるカーボンニュートラルへのコミットメントは、ダイベストメントではなく、エンゲージメントにより達成することが重要
  • サプライチェーン全体での排出削減が重要である中、スコープ3は実践面での課題解決のために算定方法の確立が必要であり、チェックボックス方式に陥らずスコープ3開示がなぜ必要なのか背景を理解することも重要
  • 化石燃料への依存度が高いアジアを中心として、世界的にトランジション・ファイナンスは不可欠であり、開示の中でトランジション戦略が示されることが重要
  • 日本のコンソーシアムの活動をきっかけに海外でもコンソーシアム設立に向けた動きがある。日本からの貢献が世界的な開示の拡大に果たす役割が大きい
  • 「グリーン投資ガイダンス2.0」、「ゼロエミチャレンジ第2弾」を発信

TCFDサミット2021の概要

日時:2021年10月5日(火曜日)13:30~18:30
開催方法:オンライン
主催:経済産業省
共催:WBCSD、TCFDコンソーシアム
視聴登録者数:約3,600人

プログラム


Welcome Message 萩生田 光一 経済産業大臣(代読)
広瀬 直 経済産業審議官
Opening Remarks Valdis Dombrovskis(Executive Vice-President, European Commission)
Mark Carney (Finance Adviser to the Prime Minister of the United Kingdom for COP26, UN Special Envoy for Climate Action and Finance)
Mary Schapiro (Head Of The TCFD Secretariat, Vice Chair For Global Public Policy At Bloomberg And Senior Adviser To The Founder)
黒田 東彦(日本銀行総裁)
Peter Bakker (President & CEO, World Business Council for Sustainable Development (WBCSD))
伊藤 邦雄 (TCFDコンソーシアム会長、一橋大学CFO教育研究センター長)
Keynote Speech 1 宮園 雅敬(年金積立金管理運用独立行政法人理事長)
Ronald P. O’Hanley(Chairman and Chief Executive Officer, State Street Corporation)
Panel Discussion 1
「開示をめぐる環境変化と
アセットオーナーの役割」
モデレーター:
水野 弘道(国連事務総長特使)
パネリスト:
Marcie Frost(CEO, California Public Employees' Retirement System (CalPERS))
菅野 暁(アセットマネジメントOne株式会社取締役社長)
Edward Baker(Head of Climate Policy, PRI)
重本 和之(第一生命保険株式会社執行役員投資本部長)
Keynote Speech 2 十倉 雅和(日本経済団体連合会会長)
山道 裕己(東京証券取引所代表取締役社長)
Panel Discussion 2
「TCFD開示の広がりと具体的な課題」
モデレーター:
長村 政明(東京海上ホールディングス フェロー国際機関対応)
パネリスト:
池田 賢志(金融庁総合政策局チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー)
Becky Swanson(TCFD Secretariat Support / Senior Consultant, Financial Services, Oliver Wyman)
津田 恵(株式会社日立製作所グローバル渉外統括本部 サステナビリティ推進本部 副本部長)
岩永 泰典(アムンディ・ジャパン株式会社チーフ・レスポンシブル・インベストメント・オフィサー)
Keynote Speech 3 奈須野 太(経済産業省産業技術環境局長)
Panel Discussion 3
「TCFD開示とトランジション戦略」
モデレーター:
伊藤 邦雄 (TCFDコンソーシアム会長、一橋大学CFO教育研究センター長)
パネリスト:
Kaja Pergar(TCFD Secretariat Support / Engagement Manager, Climate and Sustainability, Oliver Wyman)
Nicholas Pfaff(Head of Sustainable Finance, ICMA)
Sergio Molisani(Finance, Insurance, Tax Director & SVP International Assets, Snam SpA)
寺上 美智代(出光興産株式会社執行役員 地域創生事業管掌(地域創生事業室)(兼)サステナビリティ戦略室長)
林 礼子(BofA証券株式会社取締役副社長)
Keynote Speech 4 髙島 誠(全国銀行協会会長(三井住友銀行 頭取 CEO))
Panel Discussion 4
「環太平洋地域とTCFD開示」
モデレーター:
藤村 武宏(三菱商事サステナビリティ・CSR部 部長)
パネリスト:
Ma. Victoria A. Tan(Executive Director, Group Risk Management And Sustainability, Ayala Corporation)
田中 利明(株式会社商船三井取締役 専務執行役員 環境サステナビリティ―担当 ドライバルク営業本部長)
Yulanda Chung(Head Of Sustainability, Institutional Banking Group, DBS Bank)
大嶋 幸一郎(株式会社三菱UFJ銀行常務執行役員 ソリューション本部長)
ビデオメッセージ:
Juan Carlos Belausteguigoitia(Consorcio TCFD México / Director, Centro De Energía Y Recursos Naturales, Instituto Tecnológico Autónomo De México)
Closing Remarks 水野 弘道(国連事務総長特使)
  • サミット総括はこちらからダウンロード

議論の内容

Welcome Message


萩生田光一経済産業大臣(経済産業省岸本産業技術環境政策統括調整官による代読)

日本国が2050年カーボンニュートラルの目標の達成に向けてチャレンジし、さらに、世界のカーボンニュートラルに貢献していくこと、その中で、各国が実態に応じた様々な道筋を追求することが重要で、イノベーション創出が鍵となる。日本政府はTCFD開示を支援し、率先して気候変動対策へ貢献していく。

広瀬直経済産業審議官

世界全体のカーボンニュートラルの達成に向け、日本は「ビヨンド・ゼロ」を実現する革新的技術の確立と社会実装を目指し、世界の脱炭素化をリードする。これらの技術への資金供給を通じ、ファイナンスが企業のカーボンニュートラル実現に向けた取組を加速する流れを作り出すことを目指す。その際、開示は企業の取組評価の基盤となる。

Opening Remarks


ヴァルディス・ドンブロウスキス氏(欧州委員会副委員長)のメッセージ

欧州委員会が目指すサステナブル経済の実現のためには、民間投資に拠るところが大きい。グリーンウォッシングを防ぐには正しい開示が必要だ。欧州委員会は国際的な開示基準のイニシアチブの共通基盤となっているTCFD提言を支持しているし、EUのサステナビリティ報告基準はTCFD提言に明確に根差している。EUと日本はサステナブルファイナンスと気候対策の分野でより多くの協力が可能であり、今後のハイレベル経済対話や経済連携協定における緊密な連携が期待される。

マーク・カーニー氏(Finance Adviser to the Prime Minister for COP26 UN Special Envoy for Climate Action and Finance)のメッセージ

気候変動が企業価値の決定要因となるためには、報告、リスク管理、気候リターンの主流化、大規模資本を流動化する新市場創出が不可欠だ。COP26に向け、我々は主要国にTCFD開示義務化を呼びかけている。日本は自主開示において先進的だが、義務化においてもコーポレートガバナンス・コードの改訂に取り組むことで先進的な対応を示した。我々は開示の充実に向けて、投資家にポートフォリオがいかにネットゼロ移行に整合しているか開示することを望んでおり、ポートフォリオ整合の技術報告書を10月に公表する。あらゆる金融判断に気候変動の要素が考慮される世界を作り上げるために、日本がTCFDサミットを通じて尽力していることに感謝する。

メアリー・L・シャピロ氏(Head Of The TCFD Secretariat)のメッセージ

日本のTCFDコンソーシアムの取組は目覚ましく、メキシコをはじめとした他国のモデルになっている。今夏、TCFDは指標・目標・移行計画のガイダンスの市中協議を行った。日本では、経済産業省のクライメート・イノベーション・ファイナンス戦略2020に基づき、クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針を公表されたが、これはTCFDのフレームワークと合致した移行戦略の開示を促すものである。G7、G20でもTCFD提言に基づく義務化が支持される中、気候・サステナビリティ報告のグローバル基準確立はTCFDにとっても重要な使命であり、TCFD提言は基準の基盤として、基準確立の動きを結びつける役割をしている。

黒田 東彦氏(日本銀行総裁)のメッセージ

気候変動は将来にわたって社会・経済に広範な影響を及ぼし得るグローバル課題であることから、気候関連の情報開示の促進を進めることで、投資家は適切にリスクを認識して投資が可能になり、企業は気候変動に対応した生産活動や研究を積極化できる。日本銀行は気候変動に関する包括的取組方針を決定し、金融政策と考査・モニタリングにおける対話を通じて金融機関のTCFD開示の充実を図るとともに、日本銀行自身のTCFD開示にも取り組む。

ピーター・バッカー氏(WBCSD会長兼CEO)のメッセージ

TCFDの実装は大きく進展し、賛同者の増加のみならず多くの政府や監督機関、証券取引所でのTCFDに沿った気候報告の義務化が進んでいる。資本配分の決定にサステナビリティを組み込むためには、企業と投資家の間のコミュニケーションと連携を強化する必要がある。

伊藤 邦雄氏 (TCFDコンソーシアム会長、一橋大学CFO教育研究センター長)のメッセージ

TCFD開示のモメンタムが高まっており、気候変動に積極的に対応し、情報を開示する潮流が確立してきている。TCFDコンソーシアムでは、こうした環境変化に対応すべく投資家向けの手引書である「グリーン投資ガイダンス」を改訂、金融・産業・政府の間の対話の充実のためにラウンドテーブルを実施、国際連携を進展させるなどの活動を行っている。

Keynote Speech 1


宮園 雅敬氏(年金積立金管理運用独立行政法人理事長)のメッセージ

年金積立金管理運用独立行政法人は気候変動をESG活動の最重要テーマの一つと位置づけ、TCFD提言に沿った気候関連財務情報の開示を行っている。2020年度版のTCFD開示においては、温室効果ガス排出の分析対象をサプライチェーン全体に拡大し、低炭素社会への移行に伴う機会とリスクの産業間の移転の分析を新たに行った。日本のエネルギーや化学産業では脱炭素社会への移行に伴う機会がリスクを大きく上回り、有望な技術があることが明らかになった。今後も、気候変動が企業価値や産業構造に与える影響を適切に捉えられるよう、分析改善に腰を据えて取り組むとともに、市場全体の持続可能性向上に努めていく。

ロナルド・オハンリー氏 (ステート・ストリート会長兼CEO)のメッセージ

TCFD開示は年金基金、銀行、保険を含む金融システムのすべての分野で喫緊の課題であり、開示の義務化が進展している。ステート・ストリートは投資対象にTCFD開示を促しているが、TCFD提言の実行が次なるステップだ。より多くの企業がTCFD提言を採用・承認することに期待するとともに、我々は画一的なアプローチをとるのではなく、業界のベストプラクティスの共有を支援していく。

Panel Discussion 1


開示をめぐる環境変化とアセットオーナーの役割

アセットオーナーの及びアセットマネージャーが、この1年間の新たな取組や進捗を振り返り、脱炭素化に向けたアセットオーナーの役割について議論した。TCFDの枠組みはなくてはならない存在になり、開示義務化の取組も進んでいる。この1年で開示の重要性が一段と重みをもった。
アセットオーナーは、信頼性のあるデータに基づいて資本配分をする必要がある。そこで指標・目標の設定や、定量的な分析に基づく長期的メリットが重要になる。その分析のためには、開示の標準化も期待される。金融業界ではアセットオーナーのみならず、投融資先が非流動的な銀行のコミットメントも必要だ。
投資家によるネットゼロのコミットメントは、ダイベストメントにより達成するのではなく、エンゲージメントこそが解決策である。アセットオーナーは個別のエンゲージメントにとどまらず、集団的にエンゲージメントを実践していく。アセットマネージャーは定量的なシナリオ分析結果を用い、明確なアプローチをアセットオーナーと議論していく。
パリ協定実現に向けては官民の協力が必要であることから、政府はコミットメントに加え、具体的な計画を示すことが重要だ。

Keynote Speech 2


十倉 雅和氏(日本経済団体連合会会長)のメッセージ

経団連は昨年新成長戦略を公表し、グリーントランスフォーメーションによるサステナブル資本主義の確立を掲げた。経団連は気候変動に主体的に取り組んでおり、企業のイノベーションへの挑戦を後押しする「チャレンジ・ゼロ」を推進、これと連動する日本政府の「ゼロエミ・チャレンジ」の活用に期待する。TCFD開示の裾野拡大や、金融機関や投資家との対話の深化に努めるとともに、トランジション・ファイナンスの議論への参画や情報発信を行う。また、バリューチェーン全体での削減に取り組む。

山道 裕己(東京証券取引所代表取締役社長)のメッセージ

2021年は日本においてTCFD提言に基づく取組と開示が前進する節目の年になった。今年改訂したコーポレートガバナンス・コードでは、上場会社のサステナビリティ課題への取組の重要性が強調され、来年新設するプライム市場上場会社にはTCFDまたはそれと同等の枠組に基づく開示の質と量の充実を求めている。実務上の課題解決の一助として、TCFD提言の理解促進・普及のために情報提供を積極的に行っている。また、TCFD開示が進み、企業価値評価に開示情報が活用され、気候変動対応に積極的な企業やトランジション、革新的技術に資金が提供されることが肝要である。

Panel Discussion 2


TCFD開示の広がりと具体的な課題

企業、金融機関、当局、TCFDの代表が、TCFD開示の最先端の課題について意見を交わした。世界でTCFD開示義務化と国際基準策定が進みつつある。企業が創造性を発揮するためには投資家と企業の対話が重要で、チェックボックス型の開示のみであってはいけない。
より充実した開示を支援する手引書も策定されており、TCFDによる指標・目標及び移行計画と、ポートフォリオ整合に関するガイダンス案と日本のグリーン投資ガイダンスの改訂が紹介された。TCFDからはガイダンスへの市中協議へのコメントへの謝辞が示され、市中協議への回答を非常に重視しているとの説明があった。
TCFD開示について、スコープ3排出量の把握・削減は困難を伴うものの重要であるとの認識が共有され、バリューチェーン全体の削減のための取組が紹介された。企業からは新たな製品や技術による社会全体のCO2削減への貢献が評価されることは企業のモチベーションになること、投資家からは、投資先企業のTCFDに沿った戦略の開示がポートフォリオ管理に有用であり、投資家は企業の戦略によって創出される価値を評価するべきとの意見が示された。

Keynote Speech 3


トランジション・ファイナンスに関する施策を経済産業省奈須野産業技術環境局長より紹介した。

Panel Discussion 3


TCFD開示とトランジション戦略

内外のエネルギー企業を交え、トランジション・ファイナンスで求められる開示とTCFD開示で求められるトランジション計画の開示の親和性について議論を行った。
投資家、銀行、保険会社は事業会社のトランジションをサポートしなければならないし、事業会社はトランジション計画の中で気候変動による事業のチャンスをとらえていかなければならない。気候関連の指標・目標をトランジション計画の基礎としたうえで、監督や説明責任によって計画に信頼性を持たせる必要がある。これはICMAが推進してきたトランジション・ファイナンスのアプローチとも合致する。
トランジション・ファイナンスは世界のカーボンニュートラルを目指す企業に不可欠で、トランジション計画の開示は事業ポートフォリオの転換も必要となるエネルギー企業にとっては特に重要だ。エネルギー企業からはトランジション・ファイナンスの経験と今後のファイナンスへの期待が語られた。

Keynote Speech 4


髙島 誠氏(全国銀行協会会長(三井住友銀行 頭取 CEO))のメッセージ

日本の銀行業界は、単純なダイベストメントではなく、顧客とのエンゲージメントを通じて、顧客と一緒に脱炭素社会への移行を実現していく。顧客のTCFD提言に沿った開示は、エンゲージメントの基礎となる。またトランジションに係る戦略や温室効果ガス排出量等の情報は、銀行が企業サポートを行う上で特に重要だ。

Panel Discussion 4


環太平洋地域とTCFD開示

アジアの金融機関、事業会社、そしてメキシコで立ち上がったコンソーシアムにより、世界的なTCFD開示推進について幅広い議論を展開した。アジア、環太平洋地域での脱炭素の必要性及びそれを実現するための開示の有用性について認識を共有、開示を基礎にトランジションローン組成に至った経験が紹介された。
アジア地域の多くは新興市場であり、迅速な脱炭素化が難しい。トランジションが必要な企業が多いことから、金融機関は信頼性のあるトランジション・ファイナンスを実行し顧客の戦略を後押しするために企業の情報開示が重要であり、その開示がTCFD提言に沿っていることが望ましいとの意見が示された。開示に着手する企業には、将来的な便益を理解し社内横断的な体制を作ること、外部の専門家も活用すること等の助言もなされた。
メキシコからはTCFDコンソーシアム設立に向けた動向、日本のTCFDコンソーシアムをモデルケースとしたことの紹介がされた。

Closing Remarks


水野国連事務総長特使

国連事務総長を代表し、本サミットの成功について経済産業省、共催者のTCFDコンソーシアムとWBCSDに祝意を表す。日本国政府も含め、世界のリーダーが2050年カーボンニュートラルを宣言しているなか開催されるCOP26は、最も重要なCOPになると予想されている。これに先立ち本サミットが開催され、重要な指摘が多数なされたこと、TCFDの重要性を再確認したことは有意義だ。COPに向けて多くのイニシアチブが意見表明をするだろうし、日本はTCFD推進についてリーダーシップを発揮し続けるだろう。
パネルディスカッション1では、アセットオーナーが重要な役割を果たす必要性や、集団的エンゲージメントの活用や、ダイベストメントでなくエンゲージメントによる責任あるオーナーシップの重要性が指摘された。
パネルディスカッション2では、開示の質の改善が議論された。ライフサイクルでの排出削減が重要だが、実践面では課題がある。スコープ3開示には算定方法の確立が必要だ。また指標の標準化についてはチェックボックス方式に陥らず、スコープ3がなぜ必要なのかという原則を認識する必要がある。
パネルディスカッション3では、サステナブルなビジネスへの転換のためのトランジションの重要性が議論された。現時点で完全なグリーン化を誰もが実現することは非現実的だ。排出量のより低いビジネスモデルに徐々に変える必要があり、そのために資本投入しなければ、むしろ座礁資産が残ってしまう。トランジション・ファイナンスをグリーンウォッシングにしないためには、ロードマップや道筋が必要で、これを政府や産業界が発表していく。
こと、それには国際的な相互支援の重要性が明確になった。特にメキシコが日本のコンソーシアムにアイデアを得て開示を推進しているのは印象深い。
TCFDの最終目的は、これを枠組みとして使うことで気候変動に関する議論を進め、ビジネスや資本を誘導し、よりよい未来を作ることだ。本サミット参加者は、応援団となってTCFD提言を推進しよう。

TCFD Summit 2020

オンデマンド動画

TCFDサミット2020は10月9日に終了いたしました。サミットの映像は下記よりご覧いただけます。登壇者のプレゼンテーション資料はこちらからダウンロード下さい。

サミット映像全編は下記よりご視聴いただけます。

開催の背景

「環境と成長の好循環」の実現に向けて、引き続きTCFD開示に対する企業のコミットメントを促し、賛同機関数を増やすとともに、投資家の投融資判断に資するよう、企業は開示の質の向上を図り、ビジネスチャンスの発見や開拓につなげることが重要です。
2019年10月、東京に各国の産業界・金融界のリーダーが集まり、世界初となる「TCFDサミット」を開催しました。気候変動対策に関して、「エンゲージメントの重要性」、「オポチュニティ評価の重要性」などの基本コンセプトに合意しました。昨年のTCFDサミット開催時には、世界で863機関、日本で198機関が賛同していましたが、サミットをひとつの契機として、2020年9月25日時点で、世界1,433機関(+570)、日本306(+108)機関まで拡大しています。
第2回となる今回のTCFDサミットでは、産業界・金融界のリーダーに更なるTCFD提言の活用に向けて議論いただき、TCFD提言を実務に定着、発展させていくことを目的に、実務家によるセッションも開催しました。本サミットを通じて、気候関連財務情報開示の認識と知見を共有し、日本から世界に対して、TCFD賛同拡大に向けた取組を発信しました。

TCFDサミット2020の概要

日時:2020年10月9日(金曜日)
開催方法:オンライン
主催:経済産業省
共催:WBCSD、TCFDコンソーシアム
視聴登録者数:約3,200人

プログラム


Welcome Message 菅 義偉(内閣総理大臣)
梶山 弘志(経済産業大臣)
Opening Remark Valdis Dombrovskis(Executive Vice-President, European Commission)
Mark Carney(Finance Adviser to the Prime Minister of the United Kingdom for COP26, UN Special Envoy for Climate Action and Finance)
Mary Schapiro(Head Of The TCFD Secretariat, Vice Chair For Global Public Policy At Bloomberg And Senior Adviser To The Founder)
Opening Session
「TCFDサミットへの期待」
Peter Bakker(President & CEO, World Business Council for Sustainable Development (WBCSD))
伊藤 邦雄(TCFDコンソーシアム会長、一橋大学CFO教育研究センター長)
宮園 雅敬(年金積立金管理運用独立行政法人理事長)
Laurence Fink(Chairman and Chief Executive Officer, BlackRock, Inc.)
Ronald P. O’Hanley(Chairman and Chief Executive Officer, State Street Corporation)
杉森 務(日本経済団体連合会副会長、ENEOSホールディングス会長)
三毛 兼承(一般社団法人全国銀行協会会長、三菱UFJ銀行取締役頭取執行役員)
根岸 秋男(一般社団法人生命保険協会会長、明治安田生命保険相互会社取締役代表執行役社長)
宮原 幸一郎(株式会社東京証券取引所代表取締役社長)
Special Discussion
「ウィズ・コロナ /
アフター・コロナ時代の
ESG投資と
TCFD開示の意義」
モデレーター:
水野 弘道(経済産業省参与、TCFDサミットアンバサダー)
パネリスト:
Fiona Reynolds(CEO, PRI Association)
Marcie Frost(CEO, California Public Employees' Retirement System(CalPERS))
大関 洋(ニッセイアセットマネジメント株式会社代表取締役社長)
Alan McLean(Executive Vice President, Tax and Controller, Royal Dutch Shell plc)
青木 淳(株式会社資生堂常務、チーフソーシャルバリュークリエイションオフィサー)
Panel Discussion 1
「業種別のマテリアリティ
を踏まえた評価の重要性」
モデレーター:
長村 政明(東京海上日動 フェロー経営企画部専門部長国際機関対応)
パネリスト:
David Parham(Director of Research, Sustainability Accounting Standards Board(SASB))
押田 俊輔(マニュライフ・インベストメント・マネジメント株式会社クレジット調査部長)
Fiona Wild(Vice President, Sustainability and Climate Change, BHP)
山内 利博(住友化学株式会社コーポレートコミュニケーション部長)
Panel Discussion 2
「シナリオ分析の実践と事例紹介」
モデレーター:
手塚 宏之(JFEスチール専門主監(地球環境))
パネリスト:
Didem Nisanci(Global Head of Public Policy, Bloomberg L.P. / TCFD Secretariat)
岩永 泰典(アムンディ・ジャパン株式会社チーフ・レスポンシブル・インベストメント・オフィサー)
渋川 敦(みずほフィナンシャルグループリスク統括部リスクガバナンス室室長)
Francesca Gostinelli(Head of Group Strategy, Economics and Scenario Planning, ENEL SpA)
溝内 良輔(キリンホールディングス株式会社常務執行役員)
Keynote
「クライメート・イノベーション
・ファイナンス戦略2020」
山下 隆一(経済産業省産業技術環境局長)
Panel Discussion 3
「トランジション・
革新的環境イノベーションへの
資金供給の促進とTCFD開示の活用」
モデレーター:
伊藤 邦雄(TCFDコンソーシアム会長、一橋大学CFO教育研究センター長)
パネリスト:
塩村 賢史(年金積立金管理運用独立行政法人投資戦略部次長)
高月 擁(アクサ・インベストメント・マネージャーズ株式会社調査部ESG調査・エンゲージメント統括責任者)
藤村 武宏(三菱商事サステナビリティ・CSR部部長)
池田 賢志(金融庁総合政策局チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー)
梶川 文博(経済産業省産業技術環境局環境経済室長)
Closing Remarks 水野 弘道(TCFDサミットアンバサダー)

議論の内容

Welcome Message


~内閣総理大臣挨拶~
菅内閣総理大臣より、世界の企業、投資家がサステナビリティを核とするビジネスに転換していることへの言及がありました。さらに、日本は累積のCO2量を減少に転じさせる「ビヨンド・ゼロ」を実現するイノベーションを生み出し、「環境と成長の好循環」の絵姿を示すことで世界の脱炭素化に貢献していくことや、日本政府として、気候変動問題の解決に取り組む企業を金融の力で支える取組であるTCFDを支援していくとの表明がなされました。

~経済産業大臣挨拶~
梶山経済産業大臣より、脱炭素化・低炭素化に向けたトランジションと、CO2の大幅削減に向けた革新的イノベーションについて、これを「機会」ととらえてTCFDを活用して開示していくことの重要性が提言され、来年以降もサミットを通じて、継続的にTCFD開示の取組が推進することへの期待が示されました。

Opening Remarks


~ヴァルディス・ドンブロウスキス氏(欧州委員会副委員長)のメッセージ~
ドンブロウスキス氏より、TCFD提言は気候関連情報開示の方法について確かな指針を示しており、その重要性に鑑みて欧州委員会も引き続き強く支持していくことが表明されました。

~マーク・カーニー氏(Finance Adviser to the Prime Minister for COP26 UN Special Envoy for Climate Action and Finance)のメッセージ~
カーニー氏より、2021年11月のCOP26に向けて、気候情報開示については、様々な国・地域に応じたTCFD開示の義務化を模索していく中で、法令、証券開示基準、あるいは会計面での情報公開といった多様な方法の可能性に言及がありました。また、すべての金融判断において、金利、信用リスク、将来キャッシュフローと同じように気候変動が考慮されるべきであり、その土台となるのがTCFD開示であることや、静的な情報の開示だけでなく、気候リスクをどう管理し、どこにチャンスがあると考えているか、より良い世界を築くために戦略をどう実施しているかを開示できることが重要であるとの示唆がありました。

~・メアリー・L・シャピロ氏(Head Of The TCFD Secretariat)のメッセージ~
シャピロ氏は、世界最大数のTCFD賛同者が集まるコンソーシアムの役割は大きく、透明性の向上に向けて金融機関と非金融機関がいかに協力できるかを示す良いモデルであるとして、その努力に敬意を表しました。また、長期的視点がなければ市場で競争優位に立てないが、未来を見据えて炭素ネットゼロを掲げる企業は将来成長し、成功できるとの示唆がありました。

Valdis Dombrovskis

Valdis Dombrovskis

Executive Vice-President, European Commission
Mark Carney

Mark Carney

Finance Adviser to the Prime Minister of the United Kingdom for COP26, UN Special Envoy for Climate Action and Finance
Mary Schapiro

Mary Schapiro

Head Of The TCFD Secretariat, Vice Chair For Global Public Policy At Bloomberg And Senior Adviser To The Founder

Opening Session


第1回TCFDサミット以降、TCFD提言を取り巻く状況がどのように変化してきているか、TCFD提言の実施を促進するために投資家や産業界がどのような取組を行っているか等について、共催者、投資家、事業会社を代表するスピーカーの方々からメッセージをいただきました。コロナ禍でTCFD提言に沿った開示の機運がさらに高まり、TCFD開示が質・量ともに改善しつつある中で、財務影響分析等のTCFD開示の実践や、イノベーションやトランジションへのTCFD開示の活用について議論することへの期待が語られました。

Peter Bakker

President & CEO, World Business Council for Sustainable Development (WBCSD)

ピーター・バッカー氏(WBCSD会長兼CEO)からは、気候とサステナビリティに関する情報が投資家に活用されることが重要で、資本コストに比して、サステナブルな社会への移行に資するビジネスにより多くの財務資本を配分する資本市場を創出しなければならないとの提言がありました。

伊藤 邦雄

TCFDコンソーシアム会長、一橋大学CFO教育研究センター長

伊藤邦雄氏(TCFDコンソーシアム会長、一橋大学員特任教授)からは、世界最大のTCFD賛同機関が集まるTCFDコンソーシアムでは民と官の協力体制のもと、TCFDガイダンス2.0の改訂とベストプラクティスの収集、投資家向けの手引き書である「グリーン投資ガイダンス」を活用し、投資家がエンゲージメント等を行うGIG Supportersの取組等の紹介があり、サステナブルな社会の実現のために、気候変動への取組を中長期での企業経営の移行の機会とすることが必要との示唆がなされました。

宮園 雅敬

年金積立金管理運用独立行政法人理事長

Laurence Fink

Chairman and Chief Executive Officer, BlackRock, Inc.

Ronald P. O’Hanley

Chairman and Chief Executive Officer, State Street Corporation

杉森 務

日本経済団体連合会副会長、ENEOSホールディングス会長
三毛 兼承

三毛 兼承

一般社団法人全国銀行協会会長、三菱UFJ銀行取締役頭取執行役員
根岸 秋男

根岸 秋男

一般社団法人生命保険協会会長、明治安田生命保険相互会社取締役代表執行役社長
宮原 幸一郎

宮原 幸一郎

株式会社東京証券取引所代表取締役社長

Special Discussion


事業会社と投資家を代表する登壇者の方々から、この1年間のTCFD開示への取組みを振り返り、新型コロナウィルス・パンデミックによる影響と対応の方向性についてもご発言いただきました。投資家からは、パンデミック状況下においてESGを考慮している企業のパフォーマンスに性の相関関係が示されていること、バリューチェーン全体でのネットゼロに向けた働きかけなどが紹介されました。事業会社からは、パンデミックによって事業環境がグローバルに急速に変化する中で、対応の加速化の必要性、経済価値と社会的価値の両立に向けたイノベーション投資への重要性などが紹介されました。
投資の意思決定に役立つ情報が必要とされる中、ESG投資においてTCFDは現状で利用可能な最良の開示枠組みであり、他の基準との調和を進めてギャップを埋めることや、特にシナリオ分析を活用して長期的なリスク管理やビジネス機会を評価し、開示して対話することの重要性が議論されました。また、セクター自体の変革が必要な場合もあり、社外のプレーヤーを取り込んでイノベーションをもたらそうとする企業を評価するためにも、投資家側にもTCFDへの一層の取組みが必要とされました。

Panel Discussion 1


気候変動は幅広い業種にとって重要な課題ですが、業種が異なればリスクや機会の性質が異なるため、TCFDに準拠した開示や評価は画一的に行うのではなく、業種固有のマテリアリティを理解した上で、評価することが重要です。本セッションでは、各社が固有の気候関連リスク・機会を経営戦略に統合し、効果的に管理する方法や、業種別マテリアリティを踏まえた建設的な対話やエンゲージメントのあり方等について議論が行われました。
議論を通じて、投資家は長期的視点をもって、業種別のマテリアリティを投資決定に組み込むこと、企業は潜在的な気候リスク・機会を把握して経営レベルで議論するためのメカニズムを構築することが重要との認識が共有されました。また、開示は初めから完璧を目指すのではなくステップバイステップの取組であること、マテリアリティを同じくするセクター内での危機感の共有が有効である一方、マテリアリティを管理する戦略においては企業の独自性が求められるとの指摘がありました。

Panel Discussion 2


TCFD提言におけるシナリオ分析は、TCFD提言実施における大きな課題の1つですが、シナリオ分析を実施し、分析結果を経営戦略に統合して実行することはビジネスチャンスにもつながります。本セッションでは、シナリオ分析を中心に、企業によるTCFD提言の実践や、投資家・金融機関による企業のTCFD開示を活用した評価について経験を共有するとともに、それらから得られる学び等について議論が行われました。
議論を通じて、シナリオ分析をまず開始し、継続的に実施することの重要性、経営層や担当以外の部署がシナリオ分析に参画する重要性、シナリオ分析の実施が経営層の意識を変えるといった一連の経営層との意識の共有プロセスがマネジメントに良い影響を与えていることもTCFDの成果のひとつである等の認識が共有されました。

Keynote


経済産業省山下隆一産業技術環境局長より、「クライメート・イノベーション・ファイナンス戦略2020」の紹介を行いました。

Panel Discussion 3


世界全体でのCO2削減には、トランジション、グリーン、イノベーションに対するファイナンスが不可欠です。本セッションでは、トランジションや革新的環境イノベーションへの資金供給の重要性や、TCFD情報開示を通じて、金融機関や投資家がトランジションやイノベーションに取り組む企業を評価するための方法等について議論が行われました。
議論を通じて、トランジションや革新的環境イノベーションへのファイナンスを促進するには、企業側はTCFDを通じて創意工夫を活かした柔軟な情報開示を行い、投資家側はこれを積極的に評価するループを作り出すこと、その一歩として「ゼロエミ・チャレンジ」への取組がある等の議論が行われました。
さらに、効果的な情報開示の推進には、比較可能性のみの追求ではなく、企業が置かれた状況に即した、現実的でパリ協定と整合した取組が必要です。日本では自主性と柔軟性を確保しつつ、コーポレートガバナンス・コードなどのソフトローで画一的でない開示の制度的基盤が整えられていることを出発点に、さらに自主的取組を後押しつつ、産業界とも協働しながら、制度的な対応に取り組んでいくという日本の姿勢も確認されました。

Closing Remarks


水野 弘道

経済産業省参与、TCFDサミットアンバサダー

TCFDサミットアンバサダーの水野経済産業省参与より、クロージングリマークスとして以下を含むいくつかの示唆がありました。
気候変動は我々にとって最大の脅威ですが、最大の機会にもなり得ます。すべてのイノベーションはサステナブルな経済へのトランジションを支えるものであり、適切な分析と投資が必要です。TCFDの枠組みは、脱炭素化に取り組む企業を公平に評価する分析プロセスでもあります。グローバルな排出削減には、トランジション、グリーン、イノベーションへのファイナンスが重要であり、その判断に必要な情報がTCFD開示で表現されます。これらの情報をどのように開示枠組みに入れ込んでいくかは、日本がリーダーシップをとって議論を進めているところです。グローバルな支援も得つつ、さらに議論を深化させていきます。
開示の義務化に至るには、様々な地域や国、経済環境を考慮する必要がありますが、それを実施しないことの言い訳に使ってはなりません。他方、義務化には厳格な規制要件以外にも様々な方法があり得ることから、事実上の義務化など、よりクリエイティブなアプローチも検討すべきです。自主的な枠組みの上に、よりアグレッシブな開示に挑戦する企業を尊重するためにも、自主性と義務化のバランスを考慮する必要があります。

TCFD Summit 2019

2019年10月8日(火)

オンデマンド動画


TCFD Summit 2019ダイジェスト

TCFDサミットについて


  • 世界初となる「TCFDサミット」を東京で開催し、「環境と成長の好循環」のコンセプトの下、世界の産業界・金融界のリーダーが集結し、今後のTCFDの方向性を議論。
  • 我が国からは、投資家が企業の開示情報を評価する際の指針となる、「グリーン投資ガイダンス」を発表し、多くの賛同を得る。
  • また、TCFDサミット総括において、ダイベストメントからエンゲージメントへ、気候変動のリスクだけでなく機会の評価の重要性等のメッセージを発信。

登壇者集合写真
登壇者集合写真

TCFD SUMMIT 会場風景
TCFD SUMMIT 会場風景

TCFDサミット結果概要 ①


  • 経済産業大臣より、TCFD提言に関する我が国のこれまでの取組や情報開示の重要性について説明があり、イノベーションに向けた投資や気候変動対応をコストではなく競争力の源泉と捉えることの重要性についての認識が共有された。
  • イングランド銀行のマーク・カーニー総裁からは、包括的な気候関連情報の開示の重要性や、ネットゼロ社会の実現に向けた投資を主流化することの必要性等について述べられた。
Welcome Message 菅原 一秀(経済産業大臣)
Opening Remark マーク・カーニー(イングランド銀行総裁)
Opening Session
(TCFDサミットへの期待)
伊藤 邦雄(TCFDコンソーシアム会長、一橋大学大学院特任教授)
ピーター・バッカー(WBCSD会長兼CEO)
メアリー・L・シャピロ(TCFD事務局アドバイザー)
水野 弘道(国連責任投資原則協会(PRI)理事、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)理事兼CIO)
進藤 孝生(日本製鉄株式会社 代表取締役会長、経団連副会長)
チャールズ・O・ホリデイ(ロイヤル・ダッチ・シェル 会長)
Video message ヴァルディス・ドンブロウスキス(欧州委員会副委員長)


マーク・カーニーイングランド銀行総裁

気候リスクとレジリエンス(強靱性)を金融の投資判断の中心に持ってくるためには、気候開示が包括的で、気候リスク管理が変容し、ネットゼロ世界に向けた投資が主流化しなければならない。(中略)今、開示は静的を超えて戦略的である必要。市場はどの企業が気候変動にレジリエントかを評価するための情報を必要としている。そのために、企業、銀行、保険会社、投資家は4つのことをしなければならない
①開示の量と質を高める
②投資判断に最も役立つ情報を決定するための開示手法を洗練する
③戦略的なレジリエンスを評価するための知識を普及する
④TCFDは現在のポートフォリオがネットゼロへの移行に向けて、どの程度準備ができているか開示する方法を検討すべき

→最大のハードルの一つがESG測定におけるバリエーションの多さ
→環境パフォーマンスを特定するための共通タクソノミーについて、EUタクソノミーやグリーンボンド基準は助けになるが、二進法的になる傾向。むしろ「50段階の色合いのグリーン」を示すようなタクソノミーが必要。

TCFDサミット結果概要 ②

  • オープニングセッション【TCFDサミットへの期待】では、 TCFDサミットにおける議論のシーンセッティングとして、共催者(TCFDコンソーシアム、WBCSD)、TCFD事務局、投資家、事業会社の登壇者より発言。
  • TCFDコンソーシアム会長の伊藤一橋大学大学院特任教授より、TCFDコンソーシアムが同日に公表した「グリーン投資の促進に向けた気候関連情報活用ガイダンス(グリーン投資ガイダンス)」について、主なポイントは、①エンゲージメントの促進②気候関連リスクと機会の把握及び評価③イノベーションの促進と適切な資金循環の仕組みの構築と説明。環境と経済の二項対立を乗り越えることの重要性を強調。
  • WBCSDのバッカー会長兼CEOより、企業はパリ協定とSDGs実現で重要な役割を担う一方、多くの分野の変革に金融システムの変革が欠かせないこと、企業と資本市場の対話を変える重要な触媒となるのがTCFD提言に基づく情報開示と発言。
  • シャピロTCFD事務局アドバイザーより、日本が世界をリードし、TCFD提言が財務情報開示の常識になることへの期待が述べられた。
伊藤邦雄伊藤邦雄 TCFDコンソーシアム会長、
一橋大学大学院特任教授
ピーター・バッカーピーター・バッカー
WBCSD会長兼CEO
メアリー・L・シャピロメアリー・L・シャピロ
TCFD事務局アドバイザー

TCFDサミット結果概要 ③

  • 水野PRI理事、GPIF理事兼CIOより、今年8月にGPIFはTCFD提言に則った報告を公表「ユニバーサル・オーナーであるGPIFのポートフォリオが2℃以内のシナリオに整合したとき、初めて世界は気温上昇2℃以内を達成できる」と考えている旨発言。
  • 進藤日本製鉄会長、経団連副会長より、日本鉄鋼連盟は昨年11月に長期温暖化対策ビジョン「ゼロ・カーボン・スチールへの挑戦」を発表する等取組を推進。環境と経済の好循環を実現するには、オポチュニティの評価が益々重要。ダイベストメント(投資撤退)の発想ではなく、目指すべき未来社会像の実現に向けた技術開発に投資が促進されるべきと発言。
  • シェルのホリディ会長より、エネルギーの転換を恐れてはならず、このピンチを新たな機会と捉えて行動するべき。シェルのシナリオでは転換までに48年かかるが、達成に向け、30年、50年時点のGHG排出目標を立て、3年毎の目標も経営陣全体で共有していると発言。
  • 欧州委員会のドンブロウスキス副委員長より、ビデオメッセージにて、2℃目標の達成には公的資金だけでなく民間資金を動員し、グリーン投資の規模を拡大していくことが必要であり、ファイナンス促進に向けたタクソノミー等の取組を推進しているとの紹介。また、「グリーン投資ガイダンス」の策定を含め日本の気候変動関連開示分野におけるリーダーシップを歓迎する旨、述べられた。
水野理事水野 弘道
国連責任投資原則協会(PRI)理事、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)理事兼CIO
進藤会長進藤 孝生
日本製鉄株式会社 代表取締役会長、経団連副会長
チャールズ・O・ホリデイチャールズ・O・ホリデイ
ロイヤル・ダッチ・シェル 会長
ドンブロウスキス欧州委員会副委員長ヴァルディス・ドンブロウスキス
欧州委員会副委員長のビデオメッセージ

TCFDサミット結果概要 ④

  • パネル1【エンゲージメントの重要性】では、ダイベストメントは排出する場所が変わるのみであり、投資家はエンゲージメントを通じて企業の変化を後押しすることが重要、「グリーン投資ガイダンス」は企業と投資家の対話のためのツールとなる等の議論が行われた。
Panel
Discussion 1
(エンゲージメント
の重要性)
モデレーター
水野 弘道(国連責任投資原則協会(PRI)理事、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)理事兼CIO)
パネリスト
マーティン・スカンケ(国連責任投資原則協会(PRI)議長)
ゴードン・J・ファイフ(British Columbia Investment Management Corporation(BCI)CEO兼CIO)
ユ・ベン・メン(カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)最高投資責任者(CIO)
パク・ユギョン(APGアセットマネジメント 責任投資・ガバナンスチーム アジア太平洋担当代表)
マーク・ルイス(BNPパリバ・アセットマネジメント サステナビリティ・リサーチ・グローバル・ヘッド)
ヘレ・クリストファーセン(トタル戦略イノベーション担当プレジデント、執行委員会メンバー)

パネルディスカッション1の様子
パネルディスカッション1の様子

ヘレ・クリストファーセン
Total
  • 勝者になるか、敗者になるか、エンゲージメントこそが鍵。グリーン投資ガイダンスではまさにその点が強調
  • 「濃い緑」でなくても、既存の低炭素ソリューションを見落としてはいけない。最近、エネルギー会社がエネルギー転換債等を発行する動きは、排出削減に貢献する。「濃い緑」だけでなく、このような取組が促進されるべき。
ゴードン・J・ファイフ
BCI
  • エンゲージメントには変化を後押して影響力を行使する機会がある。ダイベストメントは排出する場所が変わるのみ
  • ESGチームだけでなく、投資判断するポートフォリオマネージャーが企業に行き、直接話すことが重要
  • グリーン投資ガイダンス等、日本では議論のための枠組ができ、対話が始まろうとしている。
ユ・ベン・メン
CalPERS
  • ダイベストメントは他のポートフォリオで排出が生じるとともに、分散投資を制限するため、受託者責任に反する
  • 発言権を持って声を上げるエンゲージメントの方がダイベストメントより好ましいアプローチである。
  • 情報は一番の触媒であり、TCFDは重要。また、リスクをプライシングするための理論的枠組みが短中長期に必要
パク・ユギョン
APG AM
  • ダイベストメントは会社の目を覚まさせる唯一の手段である場合にのみ行う。責任ある投資家としてあらゆる手段をとらなければならない。
  • 外部コンサルを使った「美しい」だけの開示は誤った方向に投資家を誘導する。誠実な開示から始めるべき。
マーティン・スカンケ
PRI
  • ダイベストメントは分かりやすい象徴的なツールである一方、エンゲージメントは時間や努力、体力が必要。
  • 投資家は、エンゲージメントの努力の透明性を高めるべき。エンゲージメントの透明性を高め、長期的なツールとしての信頼性を高めることで、ダイベストメントへの圧力を減じることができる。
マーク・ルイス
BNP PARIBAS AM
  • エンゲージメントによって、投資先企業の経営を、特に気候変動について望む行き先に導いていきたい。
  • ポートフォリオマネージャーがESGチームから引き受けて取り組むことが課題。

TCFDサミット結果概要 ⑤

  • パネル2【オポチュニティ評価の重要性】では、事業会社より気候変動への取組を開示したことのポジティブな評価を紹介。指数・運用会社より機会を評価するための指標や商品、フレームワークの開発を進めているが、データ量の不足は依然ある(特に中小型株)との発言に対し、SASBより問題はデータの質・一貫性がないことであり、評価機関のモデルも一貫させる必要がある、等の議論が行われた。
  • パネル3【アジアにおける開示の課題と今後の展望】では、今後急激な成長と莫大なグリーン投資需要が想定されるアジアにおいてTCFD提言に沿った情報開示を進める上での課題等について議論が行われた。排出量の多い産業部門も存在しエネルギーアクセス等の課題もあるアジアにおいて公正な移行と適切な情報開示を両立することが必要、企業や資本がどのように進むべきかを指南するトランジッション・タクソノミーのようなツールを作ることも考えられる等との発言があった。
Panel
Discussion 2
(オポチュニティ評価
の重要性)
モデレーター
マルディ・マクブライアン(気候変動開示基準委員会(CDSB)マネジングディレクター)
パネリスト
十倉 雅和(住友化学株式会社 代表取締役 会長)
ピエール・ブレバー(シェブロン 副社長兼最高財務責任者)
ニコラス・エイキンズ(アメリカン・エレクトリック・パワー社長、会長兼CEO)
ワカス・サマド(FTSE Russell CEO、LSEG情報サービス事業部門グループディレクター)
ベア・ペティット(MSCI 社長)
スタニスラス・ポティエ(アムンディ CRIO(最高責任投資責任者))
マデレイン・アントンチッチ(持続可能性会計基準審議会(SASB)CEO)
Panel
Discussion 3
(アジアにおけるl
開示の課題とl
今後の展望)
モデレーター
レベッカ・ミクラライト(気候変動に関するアジア投資家グループ(AIGCC) エグゼクティブ・ディレクター)
パネリスト
池田 賢志(金融庁 チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー)
エミリー・チュー(マニュライフ・インベストメント・マネジメント ESG グローバル・ヘッド)
リチャード・パン(ChinaAMC マネジングディレクター兼QFII投資国際事業担当ヘッド)
ゲオルク・ケル(アラベスク 会長)
マシュー・アーノルド(J.P.モルガン サステナブル・ファイナンス担当グローバルヘッド)
Closing Remark ピーター・バッカー(WBCSD会長兼CEO)

パネルディスカッション2の様子
パネルディスカッション2の様子

パネルディスカッション3の様子
パネルディスカッション3の様子

TCFDサミット結果概要 ⑥

  • クロージング・リマークでは、共催者であるWBCSDのピーター・バッカー 会長兼CEOより、TCFDサミット総括(Key Takeaways)が述べられた。
ピーター・バッカー
ピーター・バッカー 会長兼CEO
TCFDサミット総括(抜粋)
  • 「環境と成長の好循環」を加速するためには、企業価値を向上させ、投資リターンを増やす資金のポジティブな流れを生み出すことを可能とする建設的なメカニズムが必要です。本日、TCFDコンソーシアムが公表した「グリーン投資ガイダンス」は、こうした企業と投資家の対話を促進する有用なツールとなるでしょう。
  • 我々は、気候変動リスクとその評価の方法だけでなく、ネットゼロ社会への移行がビジネスにイノベーションのチャネルを提供するという事業機会についても、明確に理解することによって、より持続可能な資金供給のシステムへの移行を進める必要があります。
  • 環境と成長の好循環の実現を加速させるためには、投資の引き揚げ(ダイベストメント)には手法として限界があり、むしろ建設的な対話(エンゲージメント)の方が、エネルギー転換に向けた資金のポジティブな流れをより生み出す上で、より強力なツールである、という議論が行われました。
  • 急激な成長、インフラ投資、増加するグリーン投資需要が想定されるアジアにおいて、TCFD提言に沿った気候関連開示を促進することが重要です。アジアの継続的な経済発展を促進し、低炭素社会への円滑な移行を後押しするためには、この地域で実用的なアプローチを採用することが重要です。同様に、「50段階の色合いのグリーン」(注)を示していくことをも念頭に置きつつ、この地域での移行に貢献しうる低炭素技術群を提示することが重要です。
  • また、我々は、TCFDを支持し、その提言の履行に向けた取組に集中するためにも、世界の産業界、金融界、政府、規制当局、国際機関等を含む幅広い利害関係者をまとめるための継続的な努力が必要だと明確に呼びかけました。これは、地球規模での「環境と成長の好循環」を加速させる重要な触媒になります。
  • そのため、我々としては、来年東京で再びTCFDサミットを開催します。そしてTCFDコミュニティが作り出す更なる進展を聞く機会を楽しみにしています。我々はまた、日本のTCFDコンソーシアムが、アジアを含む世界中からベストプラクティスを収集し普及させることを通じて私達の取組を引き続き後押しすることを期待します。
  • 最後に、今日の議論から、TCFDが低炭素経済への移行を導く上で重要な役割を果たしていることが十分に明確であることを付け加えたいと思います。したがって、TCFDの営みが継続され、重要な議論と学びの機会のためのプラットフォームと推進力を提供し続けることが最も重要です

(注)英語では、“50 shades of green”。グリーンであるか否かの二進法的な分類ではなく、進歩幅や移行の観点をも加味した評価軸の比喩として用いられた言葉。

  • TCFDサミット総括の詳細は、経済産業省ホームページを参照。
  • TCFDサミット2019では、参加者の国内移動及び会場でのエネルギー使用に伴うCO2排出量(合計約2トン)相当を、J-クレジット制度を活用してオフセットしました。
  • 上記、本ページに記載されている登壇者の役職は、TCFDサミット開催時点(2019年10月8日)のものである。